手作り文化

壊れたものに新たな命を吹き込む金継ぎ

ある日、祖母の家の押し入れから見つけたのは、ひび割れた古い茶碗。それを見た祖母は、ただ捨てるのではなく「金継ぎで直そう」と言いました。その時初めて知ったのが、金継ぎの存在でした。壊れたものに新たな命を吹き込む、日本の伝統技術に、ふと心が動かされた瞬間です。

金継ぎの原点

金継ぎの原点は、日本の伝統的な修復技法に根ざしています。これは、割れたり欠けたりした陶磁器を、漆と金粉(または銀粉、プラチナ粉)を用いて修復する技術です。金継ぎは、単に物を修理するだけでなく、修復された部分を美しく際立たせることで、新たな価値を与える芸術形式としても捉えられています。

材料と手順

金継ぎに使われるのは、自然から得られる漆と金粉。漆で接着した後、金粉を使って線を引くことで、傷跡を美しく見せます。この独特な方法が、壊れた器に新たな美を与えるのです。

準備するもの

・割れた陶磁器
・漆(接着剤として)
・金粉(装飾用)
・細かい筆
・研磨紙や砥石
・保護手袋(漆は肌につくと炎症を起こすことがあるため)

割れた部分の清掃

まず、壊れた部分のゴミやホコリを丁寧に取り除きます。これにより、漆がしっかりと接着するようにします。

漆で接着

割れた部分に漆を塗り、丁寧に接着させます。大きな割れの場合は、数回に分けて漆を塗り重ね、しっかりと乾燥させることが重要です。乾燥は自然乾燥が基本ですが、湿度が高い環境で行うと良いとされています。

金粉を散らす

接着した部分が乾いたら、その上から再び漆を塗り、その上に金粉を散らします。筆を使って金粉を均等になるように広げ、余分な金粉は払い落とします。

仕上げ

全体が乾燥したら、研磨紙や砥石で表面をなめらかに仕上げます。この際、金粉の部分を痛めないよう慎重に行います。

最終乾燥

仕上げた後、完全に乾燥させます。これにより、漆が硬化し、金粉が定着します。

侘び寂びと金継ぎ

金継ぎは、「侘び寂び」という日本特有の美意識と深く関連しています。侘び寂びとは、不完全なものや儚いものに美を見出し、それを受け入れる心のあり方を指します。金継ぎを通じて、壊れた物に新たな生命を吹き込み、その傷跡すらも美しいものとして受け入れることは、この侘び寂びの精神を体現していると言えるでしょう。

金継ぎの現代的な魅力

現代において、金継ぎはその修復技術や美意識だけでなく、持続可能性や物を大切にする精神の象徴としても見直されています。捨てるのではなく、修理し、更に美しくすることで物との長い関係を育む文化は、現代社会における消費と廃棄のサイクルに対するアンチテーゼとしても注目されているのです。
今、金継ぎは古い技術にとどまらず、新たなアートの形としても注目されています。SNSでは、若い世代による金継ぎ作品が多く共有され、伝統と現代が融合した新しい文化として育っています。

金継ぎは、家でも始められます。専用のキットも販売されており、簡単な修理から本格的な作品作りまで、自分でチャレンジすることが可能です。手を動かして何かを作る楽しさを、金継ぎで感じてみませんか。
この記事を通じて、金継ぎの奥深い世界に触れ、ものを大切にする心や、壊れたものに新たな命を吹き込む文化を、一緒に感じ取っていただけたら嬉しいです。